「さーわーまーつー・・・。」
「どうした、。」
「私、鳥居さん、きらーい・・・。」
「おいおい・・・。それは八つ当たりだろ?」
正面に座っているがテーブルにダレながら、愚痴を始めた。俺は苦笑いしながら、それを聞いていた。
さっき、幼馴染のが俺に愚痴を聞かせようと、このファミレスに呼びつけた。しかも、俺の奢りで、とか言い出すから、思わず俺も「俺だけ損するだろ?!」とツッコミを入れた。すると、「もちろん、私が奢るから、ちょっと来て。」とが言い直して、俺も「別に奢らなくてもいいけど。ま、今から行くわ。」と言い直して・・・現在に至る。
「だってー・・・。鳥居さん、可愛いし、優しいし、私と違って女の子らしいしー・・・。」
「・・・それ、全部褒め言葉。」
「だって!鳥居さんの悪い所なんて、思いつかないもん・・・!!あの子、本当にいい子なんだよ?!!」
「わかった、わかった。」
「ほら〜・・・。沢松も鳥居さんの方がいいって思ってんでしょ・・・?」
「そうは言ってないだろ・・・!」
「どうせ、男なんてみんな、鳥居さんみたいな子が好きなんだぁ・・・!!」
がこんなに荒れているのには理由がある。
俺たちのもう1人の幼馴染、猿野天国に彼女ができたから、だ。その彼女が先ほどから名前が出ている、鳥居凪ちゃん。
あの天国には勿体無いぐらいの人物だと俺も思う。アイツは、本当に昔からエロいし、バカだし・・・。一体、どこに惹かれたのか、と不思議に思うぐらいだ。
と言うのは、言いすぎだけど。俺だって、天国が本当はいい奴だってことぐらい、わかってる。だからこそ、が天国のことが好きだというのもわかる。
それで、がこんなに荒れているわけなんだが・・・。
俺としては、すごく複雑だ。何せ、俺は俺でのことが好きだから。
ダチに彼女ができたっていうのは喜ばしい。でも、先に彼女ができたっていう意味では、悔しく思う。
そのくせ、これでは天国を諦めてくれるんじゃないか、と思えば嬉しい。でも、をこんなに悲しませる天国が許せないとも思う。
結局、俺が自分の気持ちに素直になれないだけ。
「が素直にならないからだろ・・・?」
「うるさい・・・。素直になんて、なれるわけないでしょうが。・・・気持ち悪い。」
「自分で気持ち悪いって、なぁ・・・。」
また俺は苦笑いをした。俺も、痛いぐらい、その気持ちがわかるから。
幼い頃から、俺はが好きで。は天国が好きだった。それは、高校に入っても変わらなくて。俺は、一時期を諦めようと、別の子を好きになろうとしたことがあった。
それが空手部の遊神楓ちゃん。アイドル的存在の彼女なら、疑われないだろうと。
だけど、その子も天国を好きになり、なんで天国ばかり・・・、と思った。
を諦めようとしても、天国に邪魔されて。を好きでい続けるにも、天国に邪魔されて。そして、そんな天国に彼女ができて。
俺はお前を責めることはできない。だって、を諦めるのも楓ちゃんを巻き込み、を好きでいても何もしなかったのは俺だから。
だけど、はお前のために、何も知らなかった野球の勉強をして、今までマネージャーをやってきたんだ。お前が野球部に入ったきっかけを知っていても。
「その割に、天国のためにマネージャー業も頑張ってたじゃねぇか。」
「うるさい・・・。」
「ハハハ。」
俺はそのことをあらためて確認するかのように、そう言った。そして、少し怒りながら返したの言葉にそれがやはり事実なんだと教えられて、俺は虚しく笑った。
「あれは、若気の至りよ・・・。」
そんな風に寂しく言われると、どれほど天国が好きだったのか、あらためて思い知らされるな・・・。
だけど、俺だって、が好きなんだ。何もできなかったけど、少しでも役に立てたらと思って、俺は俺で報道部に入った。もちろん、天国のためってことも少しはあったけど、ほとんどはのためだった。
そんなことを考えた俺は、いいアイディアを・・・。いや、違う。せこいアイディアを思いついてしまった。
このままマネージャーを続けるのが大変そうなに、俺はその提案をした。
「でも、今更辞めるのか?」
「鳥居さんと一緒にやるのも気まずいしねー・・・。」
「何なら、報道部に推してやろうか?」
「そうねぇー。・・・でも、結局、野球部に関わっちゃうじゃん。」
「いや、俺ら野球部以外もやってるし。」
「マジでー?!あんま、知らなかったわぁ!」
「報道部を何だと思ってるんだよ・・・。」
「冗談だよ、冗談!・・・でもさ。鳥居さんも天国も、私の気持ちは知らないわけじゃない。それなのに、急にマネージャーを辞めるなんて言い出したら、優しい2人に心配かけちゃうと思うんだ。だから、何とかマネージャーを続けるつもり。」
「はそれでいいのかよ?」
「ん〜・・・、何とか。まぁ、野球部には素敵な先輩もいるし、犬飼くんや司馬くんとかカッコイイ子もいるし、その人たちを狙うって手もありよねー!」
相変わらず、テーブルに凭れかかりながら、はそう言った。
俺ってズルイな・・・。に「それでいいのか」なんて聞いておいて、本当は俺がと一緒に報道部に入りたかっただけだ。
マジでカッコわりぃ・・・。だけど、を励ましたいという気持ちも嘘じゃない。そう思いながら、を見ていると・・・。
「おい、?!」
「あぁ〜・・・。ごめん。何か泣けてきた。」
そう言ったの顔には、一筋の涙が流れていた。
すぐに頭を撫でようとして手を出しかけたが、これは本当にのためにするのか、と自問した。けど、答えの出ぬまま、俺は手を伸ばしていた。
「とりあえず、泣き止めって。俺が泣かせたみたいだろ・・・。」
「沢松が泣かせたんだよぉ〜・・・。」
「何言ってんだよ?!どう考えても、俺じゃないだろ!」
さっきよりも涙を流しているは、俺のためになんて泣いてくれないだろ?
「沢松の優しさに嬉し泣きしてんのよ。」
だけど、そう言われて、俺は遣る瀬無い思いに駆られた。
さっき撫でたのだって、のためだとは言い切れない。俺が触れたかっただけかもしれない。
報道部に推すと言ったことも、今まで相談を聞いてきたことも、全部。下心が無かったわけはないのに。
「あれ?さんに、沢松さん・・・?」
「え?!うわ!本当だ・・・!凪さん、しーっ!!」
と、突然、今最も会いたくない2人の声が聞こえた。
「天国・・・!!それに、凪ちゃんも・・・。」
俺は慌てすぎて、どうすればいいか、わからなかった。
「奇遇ですね!」
「つーか、何・・・。お前ら、俺に内緒でそーゆー関係だったわけ・・・?」
・・・お前、俺たちの気持ちも知らずに、そんなことを言うなよ。
だけど、俺はこの言葉に、冗談っぽく肯定してやろうかとも思っていたが、先にが答えた。
「そんなわけないでしょ!天国に鳥居さんは勿体無いから、幸せクラッシャーの名に懸けて、邪魔する作戦を考えてたのよ。ね、沢松♪」
「あ、あぁ・・・。」
「何だとー!たしかに、勿体無いとは思うけど・・・!!そんなことは絶対させねぇからな!!」
が言った言葉は、もちろん否定の言葉で・・・。俺は、情けなくなった。
「鳥居さんも危なくなったら、すぐに相談してよ?即行で、清熊さんと天国を絞めるから!」
「なんで、そんな強敵も連れてくんだよ?!」
「ふふ。大丈夫ですよ。こう見えて、猿野さんは・・・。」
凪ちゃんが何かを言いかけたが、はそれを阻止しようとした。・・・やっぱり、惚気話は聞きたくないというところか。
「いいよ、いいよ!!そんな話。鳥居さんにそんな可愛く言われたら、幸せクラッシャーの威力が半減しちゃうから!」
「だから、壊すなって!!」
「うっさい、天国!とりあえず、今日はまだいい作戦が思いついてないから見逃してやるわ。まぁ、楽しみにしておくことね!行こう、沢松。」
「お、おう・・・。」
「もう2度と俺たちの前に現れるなー!」
「相変わらず、仲がいいんですね。」
ありがとう、凪ちゃん。たしかに、俺たちは昔からの付き合いで、仲がいい。
でも、仲がいい友達だとは思いたくないんだ。俺も、も・・・。
「さん、また明日!」
に向かって、凪ちゃんがそう言ったが、は振り返ることなく、ただ、前を見たまま、背中越しに手を挙げた。
・・・きっと、2人の顔を見たくなかったんだろう。俺もできれば、天国には会いたくなかったし、さっきからあまり目を合わせていないのも事実。
「何だよ、凪さんが挨拶してんのに・・・。格好つけたつもりか!」
天国にそう言われ、俺は凪ちゃんにだけ、謝罪の気持ちで軽く手を挙げた。
もちろん、俺はそんなことをしてやる立場でもないし、凪ちゃんにも伝わってないと思うけど。
そう思いながら、の後を追い、店を出た。そして、は店の横にあった脇道に入って行き、そこにあった電柱を思い切り殴った。
おいおい・・・!!大丈夫か?!
だけど、そうやって簡単に声をかけられる雰囲気ではなく・・・。俺は、しばらく、そんなを見つめていた。
今、はどういう気持ちなのだろう。俺は何をしてやれるだろう。そんな考えと共に、どうすればは俺に振り向いてくれるだろうか、という考えも渦巻いている。
いや。今は、そんなことより、の心配だと言い聞かせ、やっと声をかけた。
「・・・。」
もしかしたら、俺は邪魔なのかもしれない。は1人にしてほしいかもしれない。
でも、俺に頼ってくれたのは、だ。
・・・って、これも俺が一緒に居たいだけか?
結局、俺は何もしてやれない。
そう思っていると、が少し引きつった笑顔で、こっちを振り返ってくれた。
「ごめん、沢松。この店で何も頼まずに出てきたから、奢ることができなかったね。次、どっか行こっか?そこで奢るわ。」
「・・・・・・・・・。」
「どしたの、沢松。奢ってほしくないの?今なら、沢松の好きな吉牛でもいいよ!」
「今は、そんな食欲はねぇよ。」
俺は心の底から、そう思った。・・・俺は、どうすればいい?
「なんでよー?折角、この様が奢るって言ってあげてんのに。」
「大体、さっきも別に奢っていらねぇって、言っただろ?」
「あらら。勿体無い・・・。こんな機会、もう無いわよ?」
「いいって。」
俺は何もしてやれなくて、に無理な笑顔を作らせている。
俺も微妙な笑いを返して、心の中で「ごめん」と呟いた。
「そう?まぁ、いいか。そろそろ、私帰るよ。沢松は?」
「がいいなら、俺は帰るけど?」
「あ〜、そうだよねぇ・・・。急に呼び出してごめんねー?明日から、お互いに部活頑張りましょーや。」
「あぁ。・・・。また、いつでも呼び出してくれていいからな?」
「うわぁ・・・。沢松、気障ー・・・。」
「なんで、そうなんだよ?!」
「ハハ、冗談だって!マジで感謝してるって!それと、今日の奢りの有効期限はあと1週間ぐらいなら延ばしてやってもいいから、考えとけよ!それに、沢松も何か困ったことあったら言ってよ?今度は私が力になってやる!そんじゃ、またね。」
はそう言って走り去り、少し離れた所で、もう1度振り返って、手を振ってくれた。「困ったこと」はもうあるんだけどな・・・、そう思いながら、一応笑顔で振り返した。
そう、昔から、困ってるんだ。天国もも、名前で呼ぶのに、俺だけは苗字だろ?この際、天国はいいから、せめてには健吾って呼んでほしい。友達として、でいいから・・・。
ヒロイン視点(猿野夢) (ヒロイン視点)Next →
久々ミスフル夢、かつ初沢松夢でございます・・・(笑)。
コミックの一部を読み返したり、「球春白書」で調べたりして、結構苦労しました・・・(苦笑)。それでも、キャラは掴めてませんが・・・orz
でも、沢松くんは好きなんですよ!それが、ドラマCDで沢松くんを演じていらっしゃる緑川さんの影響で、更に好きになりまして、いつか沢松夢を書きたいと思っていたら、こんな切ない話になりました・・・。ごめんよ、沢松くん!!いつか、甘い(?)話も書けたらいいね・・・!!(笑)
この話は猿野夢「I love him. He loves her.」の番外編なので、猿野夢の続きとして紹介した方が良かったかもしれませんが。やっぱり、沢松くんは脇役じゃないんだぞ!ってことで、沢松夢の1つとして紹介させていただきました(笑)。
でも、ここから猿野夢に行けるという、何とも微妙な・・・;;
('08/02/22)